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血液型…A型/ 星座…牡牛座/ 性格…頑固な保守派/ 得意なこと…セリフの暗記/ 苦手なこと…手先を使うこと、音符を読むこと、整理整頓/ 口癖…あら、まあ!

2008年10月5日日曜日

市村正親さん主演・「KEAN」

ようやくとれた夏休みの1日目。
銀河劇場で公演中の「KEAN」を観てきました。市村正親さんのストレートプレイを生で見るのは初めてです。(テレビで「ハムレット」を観たことがあるけど)

実在したイギリス人俳優キーンを描いた作品です。私生活は酒に溺れ、女遊びの激しい借金まみれの卑しい男。しかしひとたび舞台でシェイクスピアの悲劇を演じさせれば、そこにはキーンではなく、登場人物そのものが息づいて見えるほどの天才的な演技力。パンフレットによると、キーンの天才的な芝居を表現するときに、「キーンではなく、ハムレット(←じゃなくてもいいのですが、そのとき彼が演じた役名がここに入ります))その人がいた」と表現されるんだそうです。他の役者さんの場合だと、「今日、○○(役者名)を観てきたよ」となるところが、キーンの場合は「今日、ハムレット(役名)を観てきたよ」になるのだと。
演じる市村さんは言うまでもなく演技派ですから、観客としても市村さんというより、キーンを観ているような錯覚を起こしました。この人の演技の幅の広さには、毎回感動します。
キーンが恋い焦がれるデンマーク大使夫人に高橋恵子さん。この方は一度、コーヒーショップでお隣に座っていらしたので、横顔ですがじ~っと見てしまったことがあります。その時はマネージャーさんとお話されていたからかもしれませんが、「厳しそうなオバサンだ…。テレビで見るほど美人じゃないし」とか失礼ながら思ってしまったんですよね。でも、舞台に立つとさすが女優。とっても綺麗で、気品が漂っている。うむ…これが役者というものか。
キーンを気に入って、いろいろと世話をやきつつ、ライバル意識を燃やすイギリス皇太子に鈴木一真。どこかで聞いたことがある名前だと思ったら、数年前にNHKの朝の連ドラに出ていましたね。今回、コメディ的な間がうまく取れていて、声質も役柄にぴったり。市村さんと一緒にいると、どうしても市村さんの貫録が勝ちますが、でも放蕩息子的な皇太子を好演しています。ラストシーンはもうちょっと!かな。でも、全体的に好感がもてて、良いです。
キーンのファンで、彼にストレートに感情をぶつけてくる商人の娘に須藤理沙。あれ…鈴木一真に須藤理沙って、まさにNHKの朝の連ドラの二人じゃん。
彼女の話し方は、朝の連ドラの頃、ちょっと苦手だったんですよね。あの頃よりずっと上手くなっていて、安心しました。市村さんと一緒にいるシーンが多いから、彼の威力にどうしてもかすんでしまうんですが…。高橋恵子さんほど渡り合えないのは、仕方のないことでしょうね。経験ってものが違うから。
上記4人がメインキャストですが、そのほかに光っていたのが、キーンの近くで彼の世話をするサロモンを演じていた中嶋しゅうさん。ガサツですが、友人として心からキーンを愛して、世話をし続ける付き人。市村さんと一緒にしっかり笑いも取れるし、じ~んとするようなお芝居もさらっと嫌みなく、濃すぎず薄すぎず演じることができる人でした。

このあと、演出的な部分のネタバレになることをちょっと書きます。これから見る方はお読みにならない方がよいかと思います。


2幕、市村さんは興奮した様子で長々とセリフを叫び、言い終わったと思ったら倒れるんです。そこにスタッフが駆けつけ、「どうする…」とささやく声。そして幕が下りる。客電がついて、しばしの沈黙。
客電ついちゃったよ…。演出だよね、これ…。いや、それにしては沈黙が長くないか…?市村さん、ずいぶん力入れて叫んでいたし…もしかして、本当にアクシデントで倒れたか?…今日、体調悪かったのかな……と、半ば心配になったころ、幕の間からサロモン役の中嶋さん登場。「あのぉ、大変言いにくいんですけど…今日はこれ以上、続けられません」(と、すぐ引っ込む)
これを聞いて、私は一安心。あ、今の言い方はサロモンを演じている人の言い方だ。「キーン」が舞台で倒れただけなのね、「市村さん」じゃなくて。まんまと演出にひっかかっちまった(^^b

もうひとつ驚いたのはカーテンコール。みなさん、稽古着で登場するんです。衣装もカツラもとって。おかげで、誰が誰やらわからない。おやおや。実は劇場にいる時には、これで何をしたかったのか、いま一つわからなかったんですよ。でも終演後、プログラムを読みながらいろいろ思い返していたときにハッとしました。
キーンは大使夫人のエレナに恋をします。危険な恋に憧れる上流階級のご夫人は、その状況に酔って彼に応えようとします。しかしそれは上流階級の生活に飽きた奥方の単なる遊び。天賦の才能を持つ男が自分に夢中になっていることに酔っているだけで、所詮は彼を「役者風情」としてしか見ていないんですよね。私は観客の一人として、キーンやエレナに感情移入しながら舞台を見ていたわけですが、結局はお金を払った観客として(3階席だったので、文字通り)「高みの見物」をしていただけで、本当に彼らの苦悩が理解できているわけではない。稽古着で登場し、にこにこと頭を下げる彼らから、「今までのは全部芝居だよ。あんたたちは娯楽として見ていただけだろう??」言われているような気がしました。観客はキーンを本当には理解していないエレナと同じなんだ…。彼らのことを見ているようで、「演じている」ところしか見ていない。当たり前のことですが、それを本当に意識したことなんて、今までなかった…。ここに思い至ったとき、頭から水をかけられたような衝撃を受けました。
こんな皮肉で素敵なカーテンコールは見たことがない!!

何だかとっても充実した気分です。舞台の世界は素晴らしい!って大声で叫びたい。

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